こんにちは。てならい堂スタッフのリムです。雪が降って、雨が降って、曇って、腫れて。気まぐれの天気が続く最近です。本を読んだり仕事をしながら窓から見える空を眺めます。時々名も知らぬ鳥が囀ったり、雲が流れたり。あーずっとみられますね。みなさんがいる窓からは何が見えますか?

そういえば、私が座ってる左側のベランダのガラスには乾燥のため貼っておいた紙の影が見えます。。そろそろ剥がさなきゃ笑。話が出たからなんですけれども、今日は私の紙作りについてお話ししたいと思います。

img_3262

私が紙漉きを学んだのは日本にきたばかりの2018年のことでした。

当時美大のテキスタイルデザイン学科に所属していた私は布を染めたり、織ったり、パターンをデザインしたり、色んなことを体験しながら日々を送っていました。そしてある日、私は紙漉きと出会ったのです。

制作の時に使う共同作業場に行ったら先生が授業の準備をしていました。机の上には何個か水槽が置いてあって、水がたっぷり入ってる水槽の中には茶色いっぽい何かがぷかぷか浮いていました。

kami9

これが煮た楮です。

これは葛です。発酵させてから使うので匂いがちょっとしますけど、独特な紙が作れます。

これは葛です。発酵させてから使うので匂いがちょっとしますけど、独特な紙が作れます。

後で知ったのですが、水に浮いていたのは「楮(こうぞ)」という、和紙の原料になる植物でした。ちなみに紙は植物繊維でのみ作ることができますが、他にも麻、木綿、葛、竹の繊維でも紙が作れます。

作業場をうろうろしていたら先生と目が合いました。軽く挨拶をしたら、先生は道具と設備について説明してくれました。話を聞いてる間にもずっと奥にある機械はうるさい音を出しながら回ってるし、反対側の鉄板のようなものからは水蒸気がでていました。何に使う設備なのかずっと気になったんですが、ようやく謎がとける瞬間でした。

説明を聞いたら紙漉きに少し興味が湧いた私は先生と相談して、授業に参加させていただくことになりました。そこで、植物が紙になるまでの一通りを知ることができました。

紙を作ってみて一番印象に残ったのは、紙を作る時には実際に漉くことよりも前準備の方がずっと長いということでした。漉く原料を用意するために、植物を育てて、切って、蒸して、煮て、晒して、洗って、叩くなど手間をかけ、地道なことを全てやらなきゃいけないのに比べ、漉くのは(枚数にもよるけれど)長くても1日もかからない作業という点では驚きました。

そしてその前準備は待つことの連続です。
まずは楮がタネから芽を出して立派な枝が伸びるまで待たなければならないし、その枝を切って蒸して皮を剥くために時間をかけなければならないです。剥いた枝の皮の茶色い表面を掻き出してから鍋に入れてたっぷり煮ないといけないし、そうしたら取り出した楮を水に何度も洗って、日に当て晒して。

img_0307-2

それで終わりではなくまだ取れてないちりを取るためにひたすら水に手を入れて作業を続けなければなりません。そしてこの作業はだいたい寒ーい冬に行われます。面倒で、寒くて、地味です。

残念ながら、面倒といって、寒いからといって、適当に、あるいは急いで済ますことはできないし、植物の成長の速度を早くさせることもできません。紙漉きの全てのことには長い待ちと順番があって、催促には意味がないのです。当たり前ですが、丁寧に扱えば扱うほどきれいでいい紙が出来上がります。

もちろん機械が作った市販の紙を買った方が比べられないほど便利だと、実は冷たい水に手を入れながら私も何度も思うんです。でも、わざわざ苦労をしたくなる時もあります。それは私が今まで何の疑問もなく使ってきたこの紙がどうやって、どこで作られてきたのを知るためにです。

知ると、わざわざだといっても時間をかけてまで自分で作りたいと思うことと、少し諦めてもいいことの判断がつきます。どれくらいの時間がかかってこのモノが私のところへきたのかが分かれば、モノの大切さがわかるのはもちろん、生活に余裕も生まれると思います。全ての物事に対してむやみに速断したり急き立てたりしない、広い心と穏やかな態度までおまけに得ることができるのです。

昔ながら紙は日常ともっとも密接しているモノでした。ささやかなモノですが、その素朴さの裏には多大な苦労が込められていることにしみじみと実感します。時間をかけて紙を漉きながら私はそんな素晴らしいことを学びました。どうかどこかで紙を漉く機会がありましたら、ぜひ参加してみてほしいです。紙を作る楽しさは想像よりもずっと楽しいですからね。