【てならい後記】六月八日を育む森のフィールドワークショップ
土地を訪ねるってこういうことなんだな、って思いました。
店主の中村です。今日は珍しくてならい後記を書いてます。9/30、10/1と二日間にわたって開催した「六月八日の森を育む土地のフィールドワークショップ」へ行ってきましたよ!
一番多かったのは福岡からのお客さんでしたが、遠く千葉・神奈川から、地元で徒歩5分という方まで、森と香りを楽しみに全国から延べ21名の方が参加してくれました。
フィールドワークショップの初日はカボスの収穫へ。中津市内にある六月八日本社から、車で30分ほど移動。途中、豊かな田園風景や、神々しい奇岩連なる耶馬溪の渓谷を眺めながら、里山のカボス畑を目指します。
カボスは大分の名産品です。かつて、耶馬溪の里山にも多くのカボスが植えられましたが、農家さんが高齢化してしまった今は、放置カボスになって出荷もされずにただ実をつけては落ちるだけ。処分するにはゴミとして処分しなければならず、農家さんの負担になっていました。
そもそもは里山の豊かな恵み。これを使えるにこしたことはありません。六月八日さんでは、この放置されているカボスをいただいて、精油に使っています。食用に出荷されるものではないので、取り合いになることはありません。
そして放置カボスなので、無農薬なんですね。これはオーガニックな精油をつくる六月八日さんにとって、もってこいの素材となっています。捨てられてしまう恵みをもってこいの素材として使い直せる。なんて気持ちいい取り組み!って思いました。
さて、カボス畑でいよいよ収穫作業。幾重にも張りめぐされた蜘蛛の巣を避けながら、カボスのヘタのぎりぎりを狙ってハサミでちょきん。その間、大量のヤブ蚊も襲ってきます。何よりもこの日は9月も最終日だというのに、すごい暑さ。いやー、こんなにも汗かくとは。
果物狩りくらいの気持ちで挑んですいませんでした。けれども収穫そのものはやっぱり、楽しくて。クセになる作業でした。
明日の二日目の蒸留に必要な量をなんとか確保して、その後は森を案内してもらいました。
森を案内してくれるのは六月八日を運営する久恒山林の久恒社長。
森を歩きながら、木々の名前を教えてもらいます。杉・檜はもちろん、六月八日のアロマではお馴染みのクロモジやシロダモ、山帰来や山椒を探してみたり、見つけては葉をとって匂いを嗅いでみます。
森の植物に詳しくなるほどに、森歩きはどんどん楽しくなりますね。もっと詳しくなりたいです。
続いて社長が足を止めたのは、隣り合う明るさの違う二つの森。一方は明るく、一方は暗い森です。
その違いは、間伐をしているかしていないかの差。うっそうとした間伐されていない森に比べて、もう一方の森は間伐することにより光が入り、明らかに明るい。そして、入ってくる日光は、木の下層に豊かな植生を産みます。豊かな植生には生き物も棲みつき、多様性の森となります。
多様性の森は土が豊か。豊かな土は保水力が増すそうです。雨が降ってもすぐに川に流れ込まないで、山に貯まる。そうやって水害を減らしてくれます。そして、豊かな水資源を蓄え、ゆっくりと川を流れ、流域の里山に農作物の恵みをもたらしてくれます。
かつて、森は皆のものだったと久恒社長が言ってました。みんなでその恵みを自由に手に入れ、みんなで手入れしていたそう。もちろん誰かが独占したり、ただのりする人がいればそれは成立しません。
こないだたまたまフィンランドの人に聞いたのですが、フィンランドの森は今でも、みんなの森なんだそうです。だから、週末になると普段は街で会社勤めをしている人たちも、みんな森へ行って、マッシュルームを採ったり、ブルベリーを採ったり。距離だけじゃなくて、心理的にも近い、そんな森って憧れますよね。
現代の林業は持続的でなくなってしまいました。
どういうことかと言うと、杉や檜の丸太1本の価格はなんと約5000円だとか。それも50年かかって5000円です。当然、それ以上のコストがかかっています。
果たして今そこにある材木を現金化したとして、果たしてもう一度、植え直そうと思うだろうか。あるいはそもそも伐採のコストをかけてでも、売ろうと思うだろうか。ここに今、持続的でないと言われる林業の真実があります。
けれど山の有用性は、経済価値だけで測ってはいけないもの。人が里山に暮らし、ましてや森の木材をこれからも少しでも使うのであれば、山の手入れは放棄してはならないことなのだと。
奥山の水の恵を受けて里山は豊かになります。里山と奥山とお互いを見ながら生きてきたのに、今は、里山は町の方を見て、奥山が置いてけぼりになる。けれど豊かさの源泉は奥山にあって、やがて里山も荒廃していく、、、
金額に置き換えてしまった故に、持続的でなくなってしまった。けれど、経済価値だけでは測れない物をどう持続させていくのか。
久恒山林は名前からも分かる通り林業の会社です。そして、その林業の会社から続かない産業となってしまった林業を持続させていくべく、持続的な収益を生み出すために、久恒社長は付加価値をつけることを考えました。
そこで通常では捨てられてしまう間伐材やあるいは、枝や葉や森の灌木を原料として、アロマオイルを売ることにしました。
アロマオイルを作ることで、森の木材から上がる収益はそれこそ桁違いに増えます。もちろんそれは材料を加工し、精油として蒸留するなど、そこにかかる手間が桁違いに増えるからこその収益。けれどその手間は、この中山間地に雇用を生み出すことを意味します。
林業を持続させるために生まれたブランド、六月八日さん。てならい堂がこのブランドに出会って、6年の月日が経っています。
そしてその間に、六月八日さんの挑戦は、新しい産業を見据えるまでに進化を遂げていました。てならい堂はこの挑戦を、微力ながらずっと応援したいと思っています。
さて、ちょうど間伐されたばかりの森に、クロモジの枝が打ち捨てられていました。普通の林業であれば、これはただのゴミ。そのまま土に帰るのを待つだけですが、香りを扱う人から見ると貴重な材料にしか見えません。
そう思うと、枝も葉も道に落ちてる実さえも、目に入るモノ全てがなんだか宝の山に見えてきて、参加した皆さんで、両手いっぱいの森の恵みを持ち帰ることになりました。大漁でしたね〜笑
中津という土地の豊かさの真髄を聞いて、流れる川と田園風景を眺めながら中津の久恒家住宅に戻って1日目は解散しました。
二日目。今日から10月だというのに、相変わらず暑い。
今日の会場は中津市の中心地にある久恒家住宅。1924年に建てられた邸宅で文化財にも指定されている建物です。
今日から参加の方が7名。みんな揃ったところで、自己紹介から。
アロマに興味があるひと、六月八日の香りのファンの人、森に興味がある人、てならい堂に興味を持っていたけどついに近所でワークショップがあった来てくれた人、近所の謎のお屋敷に興味があった人などなど、、、
お仕事もアロマセラピストの人、まちづくりに関わる人、別府のおもしろい施設の人、植物療法を提供する人、退職して自分の時間を目一杯楽しんでる人、、、と実にユニークで愉快なメンバーが揃いました。
このメンバーで昨日収穫したカボスを蒸留します。蒸留するのは皮の成分のみですので、カボスを軽く洗って皮をピーラーで剥いていきます。
これがなかなか気が遠くなる作業。1時間ほど力を合わせて皮を剥いた果実はジューサーで果汁を搾ります。
里山の恵み、もちろん余すとこなく使い切ります。今後カボス果汁を使ったお菓子も作るそうで、乞うご期待。
一仕事終えたら、六月八日スタッフでもある料理家中島さん渾身のマクロビのお昼ご飯。地元大分の素材を使い、全てのお皿にカボスが使われてる、カボスづくしなコース。なんて美味しくて、贅沢。このランチだけで、今回の金額安すぎたんじゃないかと思うほど、、、
予定時間を豪快にオーバーしながらゆったりと皆でランチを楽しんだ後は、第一弾の蒸留が終わってさっそく蒸留したての香りを皆で試します。
自宅で蒸留しない限り、なかなか蒸留したての香りは嗅げませんからね。なんともフレッシュな香り、その後熟成された香りと比較すると、違いが際立ちます。これはこれで好きですが、やはり3ヶ月ほど熟成した方が、角がとれてまろやかな香りになります。比べるとわかりやすいですね。
今回は収穫がちょっと早かったから精油はいつもより少なめだそう。なんか当たり前のことなんでしょうけど、そんな自然のメカニズムもハッとさせられます。
さらに第二弾の蒸留が終わるのを待ちながら、アロマづくりのワークショップ。今回は3〜5種類程度の精油とさらには複数の芳香蒸留水から好きなものを組み合わせて、完全オリジナルのスプレーを調香していきます。
皆、アロマに興味のある人たちで、それぞれの思いと個性を発揮しながら、出来上がった香りも本当に多彩。みんなで嗅ぎ合って、これもいいね〜それもありだねーと、本当に皆さん楽しそうでした。
ワークショップが終わるとティータイム!さっきランチ食べたばっかりな気もしますが。笑 用意していただいたのは、tsuchinokaさんのハーブティーと中島さんのおかし。どれもこれも凝っていて美味しくて、再びぜいたくな時間を皆で過ごしました。
最後はお土産を。さきほど蒸留したばかりの出来立てホヤホヤのカボス精油と、そして昨日もいだカボスも!これはうれしい。一番うれしい。
土地の人を訪ね、土地の人の思いを聴き、土地の深いところへ入り込んで、一緒に手を動かし、土地の恵みで腹を満たす。単に観光で訪れるだけでは決して味わえない、五感全部を使った土地の体感がありました。
間違いなく、私たちは中津・耶馬溪という土地と繋がったんだと思います。これが、フィールドワークショップだったのかと、企画側も想像を超える良い体験となったのでした。笑
本当の最後は、買い物タイム!併設ショップで、みなさんたくさんいろんな香りを手に入れて満足そう。それぞれにどこかの場所での再会を誓いながら、解散となりました。
これでもかと、カボス尽くしの二日間。
早速家で餃子に刺身に焼酎に楽しんでます。我ながらいい企画したなと思いながら。笑
なんて言って、てならい堂は、六月八日の皆さまにおんぶに抱っこ。実際にこの素晴らしい企画の中身を考え準備し、そして最高のおもてなしをしてくださったのは六月八日の皆さまなのでした。心からお礼申し上げます。
そして、また来年も、より多くの人を引き連れてお邪魔したいと思います。
参加した皆さまありがとうございました!