【鎚起銅器】#02 新潟・燕で200年もの歴史が培う職人技
世界有数の金属加工産地として知られる、新潟県燕市。
この地で1816(文化3)年に創業した「玉川堂」は、200余年に渡り、新潟を代表する伝統的工芸品、鎚起銅器をつくり続ける老舗です。
鎚起銅器とは、鍛金技術のひとつで、鎚(つち)で打ち起こす銅の器、という意味。
1枚の平らな銅板を、金づちや木づちで丹念にたたき、立体的な形にしていきます。
さらに、伝統の着色技術で色をつけるのが、燕ならではの鎚起銅器の特徴。
銅は、熱伝導率が非常に高く、優れた保温性や殺菌作用も併せ持っています。
こうした素材の特性を生かし、昔からやかんなどの湯沸かしや調理鍋、酒器、花器などがつくられてきました。
実際に製作の様子を見せてもらうために、“鍛金場(たんきんば)”と呼ばれる作業場へ案内してもらうと、カンカンカンと銅をたたく小気味よい音が鳴り響いています。
鎚起銅器の製造工程は、下記の通り。
《打ち起こし》……つくるものの寸法に合わせて切り取った銅板を、木づちや金づちでたたき、鳥口(とりぐち)と呼ばれる道具に引っ掛けるなどしながら、立体的に成形する
《焼きなまし》……銅はたたくと硬くなるため、炉で熱してやわらかくした後、冷水につけて冷やす。打ち起こしと焼きなましを交互に繰り返す
《打ち絞り》……部位によって数種類の鳥口や金づちを使い分け、銅を徐々に絞り(=縮めていくこと)、全体の形を整える
《彫金・成形》……つくるものによっては、鏨(たがね)を用いて模様を彫ったり、装飾したり、鎚目(つちめ)模様を施したりして、最終的な形に仕上げる
《着色》……緑青と硫酸銅を合わせた溶液で煮込み、着色する
と、ひと通りの工程を目の前で見せてもらい、それぞれの作業の手間の多さと、丁寧で細やかな技に圧倒されました!
ちなみに、職人の皆さんは同じ姿勢で長時間作業をするため、腰痛にならないよう気をつけているのだとか。(銅をたたく金づちの音による難聴にも)
そして、話を聞くなかでいちばん驚いたのは、やかんにもいくつかの製法があるそうですが、最も手間を掛けているものは1枚の銅板からつくっているということ!
この真っ平らな銅板から、あんな曲線の立体的なフォルムが生まれるなんてーー。
まさに職人技に脱帽です。
「玉川堂」の商品は、茶筒で3万円前後、やかんは溶接のものでも7万円からと、日用品としてはかなりの高級品。
ただ、今回の取材で、ひとつのものが完成するまでの膨大な手間と時間、機械では生み出せない職人の高い技術を体感し、その価格に納得できました。
けれど、正直、今のわたしにはすんなりと買えるものではありません。
でも、将来いつか、選択肢のひとつとして考えることができたらいいなと素直に思えました。
職人の高い技術を礎に、手にした人の使いやすさと、ものとしての美しさを兼ね備えた「玉川堂」の鎚起銅器は、親から子へ、子から孫へと、三世代で使い続けられる堅牢なつくり。
壊れたらお直しにも対応してくれます。
おばあちゃんが使っていたやかんでお茶を淹れることができるなんて、素敵ですよね。
次回は、そんな高級品の鎚起銅器をより生活に身近なものにしたいと奮闘する、女性職人のおはなしです。