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基本的な調味料である味噌。

日本の食生活において、土地により家によりこれほど変化に富んだ食材は、そう簡単には見つかりそうにありません。

創業82年。昔ながらの伝統的な製法で、麹から手づくりする味噌屋「糀屋団四郎」の四代目、藤井康代さんを訪ねました。

藤井康代さん 1980年に新潟の小さな味噌屋、団四郎の娘として生まれる。中学時代から春休み返上で味噌仕込みに携わる。高校卒業とともに、新潟を飛び出し京都へ。京都精華大学卒業後、地元新潟の印刷会社に2年半勤務。この頃から、家業の味噌屋に魅力を感じはじめ、一念発起し東京農業大学短期醸造学科へ入学。現在、糀屋団四郎の4代目として修行中。

藤井康代さん 1980年に新潟の小さな味噌屋、団四郎の娘として生まれる。中学時代から春休み返上で味噌仕込みに携わる。高校卒業とともに、新潟を飛び出し京都へ。京都精華大学卒業後、地元新潟の印刷会社に2年半勤務。この頃から、家業の味噌屋に魅力を感じはじめ、一念発起し東京農業大学短期醸造学科へ入学。現在、糀屋団四郎の4代目として修行中。

丁寧につくるということ

新潟県新潟市。無添加味噌を製造する「糀屋団四郎」で12月と3月に行われる仕込みは、早朝4時半から始まります。

煮た大豆を取り出す「豆上げ」。和釜で煮た大豆は甘くて美味しい!

煮た大豆を取り出す「豆上げ」。和釜で煮た大豆は甘くて美味しい!

味噌につかう大豆と米は国産原料で、和釜による留釜製法。大豆は蒸すのが一般的になってきた現在でも、代々受け継いできた和釜で煮る伝統製法を続けている理由について、藤井さんは「旨味を逃がさないから」と話します。

代々受け継がれてきた和釜。修理のできる人手もなくなってきていることから、大事につかわれています

代々受け継がれてきた和釜。修理のできる人手もなくなってきていることから、大事につかわれています

「大豆は煮ると、旨味が溶け出すのですが、一昼夜置くことで旨味が大豆に戻るんです。この時にペクチンという成分も戻るので、やわらかく溶けやすい味噌になります。量産するのには向かない製法なのですが、うちは少量生産。昔からの製法にこだわっています。」

そして団四郎では、蔵に住み着いた酵母で味噌を発酵させています。蔵付き酵母は唯一無二の酵母であるため、他にはない独特の風味を出してくれるのです。

麹菌の繁殖を促すために「へぎ(木箱)」に盛り込む作業。日本酒の吟醸香のような麹の香りが漂います

麹菌の繁殖を促すために「へぎ(木箱)」に盛り込む作業。日本酒の吟醸香のような麹の香りが漂います

「麹づくりが一番重要ですね。仕込む段階で、どういう状態に米をもっていくかなんです。ほとんどの味噌蔵は麹を機械でつくるのですが、うちは昔から麹を手づくりすることにこだわっています。菌は見えないので難しいのですが、麹の状態を感じ取ってつくったほうがいい麹になると思うんです。」

蔵じゅうにふかしたお米の蒸気が広がって暖かくなりました

蔵じゅうにふかしたお米の蒸気が広がって暖かくなりました

蔵付き酵母で天然醸造したら、1年、3年、20年とゆっくりと時間をかけて発酵。豆の処理をちょっとずつ変えてみたり、麹菌の配合をいろいろと変えてみたり。自分の五感をつかって少しずつ変化をしながらも、「糀屋団四郎」はオリジナルの味噌をつくり続けています。

「大きな味噌蔵は、商品を流通させるために、速醸といって1ヶ月で仕上げる味噌をつくっていたりします。しかも、10種類ほどの中から酵母を購入して添加するため、優秀な酵母ではあっても、どうしても画一的な味になってしまう。多様性に満ちているほうが世の中は豊かなのかなって。うちの酵母が優秀かどうかは分かりませんが、オリジナルであることに誇りを持っています。」

味噌というスローフード

私たち日本人の生活には欠かせないともいえる味噌ですが、藤井さんは現代の食生活について「ジレンマがある」と話します。

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「今は、朝ご飯にパンを食べるなど、和食が減ってきていますよね。個食になってきているのもひとつの要因としてあると思います。みんなで食卓を囲む機会が少なくなっている。ひとり、ふたりの食事となると、簡潔に食事を済ませたいという気持ちもあるのかなと。生活のスタイルが変わってきているんですね。」

健康を考えるなら、どうして味噌に注目しないんだろう。味噌汁をいただくことで野菜をたくさんとれるし、味噌を中心に食を組み立てることで自然と栄養バランスが整うはずだともいいます。

「お味噌汁だったら当然ご飯を食べたいし、漬け物があって、魚があって…と考えていけばバランスがいい食事になると思うんです。みんなで食卓を囲めば家族の時間も増える。味噌ってすごくいいものだなという思いがあるからこそ、家業を継ぐという選択をしたんです。」

4代目として家業を継ぐ

「糀屋団四郎」は、地元の大きな味噌蔵の麹部門を担当していた藤井さんの曾祖父が独立したのが始まりでした。

細々と家族で営まれてきた味噌蔵は、農業との兼業で続けられてきた“冬の仕事”だったのだそう。

「冬には冬の仕事、夏には夏の仕事があって、田舎の小さいお店でした。私の父は継ぐつもりはなかったらしいのですが、辞めないでほしいと周りの人から言われて継ぐ決心をして、蔵を増設して、昔ながらの製法を守りながらも、リフトを導入するなど力仕事が軽減されるよう工夫を重ねてくれたので、私にもできるかなって思えたんです。」

三代目の藤井喜代志さん

三代目の藤井喜代志さん

仕込みの時期になると、近所の人たちが作業を手伝いに来てくれていましたが、次第に、醸造を学ぶ農大の学生たちが研修として訪れるようになります。

藤井さんの手ほどきを受けながら…楽しそう!

藤井さんの手ほどきを受けながら…楽しそう!

「リアルな現場に触れて、農大生たちが意気揚々と帰っていくのを見ていて、この家に生まれた娘が継がずに他の仕事をするのはどうなんだろうって(笑)。小さい頃から手伝っていたので面白さを感じていたし、食文化を継承するうえでも重要な仕事だと思ってもいた。これだけのものがあるのに、私がやらないのはもったいないなと。」

最後に藤井さんは、子育て中のお母さんたちにこそ、この味噌を届けたいと話してくれました。

「食生活の基本って、幼い頃からつくられていくものだと思うんです。腸内細菌は、10歳までの食生活で決まるとも言いますしね。あらためて、本当にいいものを生活の中で取り入れられたらいいなと。」

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小さい味噌蔵であることにこだわって、オリジナルの味噌をつくる。

味噌という食材をつくり、食べていくことこそ、日本の食の多様性を守り続けていくことなのかもしれません。

 

<DATA>
糀屋団四郎
住所:新潟県新潟市南区新飯田1607
TEL:025-374-2611
営業時間:8:30~17:30
定休日:土曜日午後、日曜日・祝日
ウェブサイト:http://www.dansirou.com

 

文 / 増村江利子
国立音楽大学卒。Web制作、広告制作、編集を経て現在はフリーランスエディター、ライター。一児の母。主なテーマは、暮らし、子育て、食、地域、エネルギー。暮らしの工作家。毎日を、ちょっぴり丁寧に暮らしたいと思っています。