親子のバターナイフつくりを一緒に主催する、モノ・モノを紹介します。

モノ・モノは、東京・中野にある古い集合住宅の一室にあります。創設したのは工業デザイナーの故・秋岡芳夫。彼を中心とする有志のボランティア組織「グループモノ・モノ」は、1970~80年代にかけて日本各地で独自の工芸デザイン(クラフト)運動を展開しました。

img_0026

 

「モノ・モノ」ってどんなグループ?

みずからを「立ち止まったデザイナー」と称する秋岡芳夫が「グループモノ・モノ」を結成し、本格的に活動を開始したのは1971年。1960年代は急激な工業化が進み、手仕事で作られていた生活用品が機械で作られる大量生産品に取って代わられていく時代でした。

「生活用品の画一化、使い捨てが暮らしの根底を揺るがす時代にわれわれは何をなすべきか、とことん話し合おう」と、秋岡芳夫が提唱。それに呼応して集まったのはデザイナー、クラフトマン、編集者、カメラマン、商社マンなど十数人。場所は東京・中野にあるマンションの一室。別名「104会議室」とよばれていた、このスペースは「組織のしがらみにとらわれず、会議方式による自由なモノ作りを目指す」ため、秋岡氏が1969年に開設。会議室はやがて交流の場となり、毎週木曜日の晩になると、どこからともなく作り手たちが集まり、「モノ・モノサロン」と称して深夜まで活発な議論がくり広げられました。

この「モノ・モノサロン」がきっかけとなり、モノ作りに関連するさまざまな先進的な試みが日本各地で行われました。その成果は『秋岡芳夫とグループモノ・モノの10年』(玉川大学出版部)や『DOMA 秋岡芳夫 モノへの思想と関係のデザイン』(美術出版社)といった書籍でくわしく紹介されています。

img_7691

 

生活道具店としてのモノ・モノの変遷

このようにモノ・モノは、秋岡芳夫とその思想に共感するクリエイターたちのボランティア組織としてはじまりました。プロジェクトの過程でさまざまな商品や作品が生まれ、それらは自然な成り行きとして中野の会議室で展示販売されるようになりました。販売業務の拡大にともない、1979年に有限会社モノ・モノが設立され、クラフトの流通にも取り組むことになります。

1980年代に入ると秋岡氏は日本人の暮らし方にあった家具や生活道具のデザインを手がけるようになります。座の暮らしを意識した「あぐらのかける男の椅子」や、カーペットスタイルの置き畳「い草カーペット」、畳を家具化した「箱TATAMI」などは、後に多くのコピー商品が出回るほど人気を博しました。また秋岡氏は暮らしや道具に関する多数の書籍や、新聞雑誌での連載を手がけ、多くの秋岡ファンがモノ・モノに訪れました。

しかし、1997年に秋岡氏が死去してからは、その存在は次第に忘れられ、モノ・モノがメディアに取り上げられる機会はめっきり少なくなりました。モノ・モノが入居しているマンションも老朽化が進み、グループモノ・モノの初期メンバーも高齢化するなど、歴史ある場を維持することが年々難しい状況になっていました。

戦後の工芸デザイン(クラフト)運動の“レガシー”ともいえる場所を再生し、ふたたび活気あふれる場所にしたい――。そんな思いから、モノ・モノは2015年6月に社長交代を行い、補助金、クラウドファンディングによる資金調達や関係者からの寄付金を得て、大規模な改装工事を実施しました。

akioka

 

新生モノ・モノが目指す、3つの社会的ミッション

従来のモノ・モノがはたしてきた役割はふたつあります。ひとつは「異世代・異分野の作り手が集まり、とことん意見を交わすサロン」としての機能。もうひとつは「もの作りを通じた社会的活動の拠点」としての機能です。これらのよき伝統は踏襲しながら、新生モノ・モノでは以下の3つのプロジェクトを今後進める予定です。

(1)プロフェッショナルセミナーの開催
地場産業の衰退とは対照的に手仕事を趣味にしたり、職業として目指す若者がふえています。こうした動きはハンドメイドブームともいわれ、個人を中心とした新しい市場ができつつあります。また、デジタルファブリケーション技術により、パソコンひとつで立体物が瞬時に造形できるようになりました。誰もが作り手となれる時代だからこそ、先人たちの言葉に耳を向け、生活者の視点にたったもの作りの姿勢、手の内から生まれるデザインについて学ぶことが大切だと考えています。

(2)秋岡芳夫の遺志を伝える木育活動
秋岡氏は優秀な工業デザイナーであっただけでなく、プロ顔負けの技量をもった木工家としても知られていました。晩年はアトリエを開放し、多くの木工愛好家を育てました。東京・目黒のアトリエには「木はそる、あばれる、狂う、生きているから、だから好き」という直筆の書がいまも掲げられています。新生モノ・モノでは、秋岡氏の理念を受け継ぎ、木工をテーマにしたワークショップやセミナーを今後企画していく予定です。

(3)昭和期のクラフトデザインのアーカイブ
インテリアや工業製品の世界では、ミッドセンチュリーとよばれる1940年代から60年代にかけて、多くの名作デザインが生まれています。日本のクラフト界も同様で、デザイナーの感性をあわせ持つ優秀なクラフトマンたちが、産地との深い関わりの中で、秀逸なモダンデザインを残しています。新生モノ・モノでは、こうした昭和期の名作クラフトを収集・展示するとともに、一部を復刻生産し、海外へ流通させる事業にも将来、取り組みたいと思っています。

今回のイベントは、このうち(2)のプロジェクトの皮切りとなるものです。国産の木材をふんだんに使用したスペースは住まいのようにくつろげると評判。また改装時に断熱をしっかりと施してあるので、真夏でも快適に過ごせます。午後の部のみ数席空きがありますので、ぜひお早めにお申込みください。

dsc_1163

文/菅村大全(グループモノ・モノ)