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深く吸い込まれるような、なんとも美しい藍色。
みなさんはどのように染められているか知っていますか?

「藍っていうのは発酵なんで生き物なんですよ。味噌やチーズ作りだとかのものづくりの発想がないといけないんです。そこが化学染料の藍染めとの大きな違いなんですけど。」

そう語るのは東京都青梅市にある藍染め工房「壺草苑」の工房長、村田徳行さん。

味噌やチーズ作りと同じ発想…?
今回は想像以上に奥深い藍染めの世界について、この道29年の村田さんにお話を聞きました。

「天然藍灰汁発酵建て」って?

村田さんは江戸時代から続く「天然藍灰汁発酵建て」という手法で藍染めをおこなっています。

鍵となる原料がタデアイの葉を乾燥し、発酵させた「すくも」。今では徳島県にいる5人の職人さんによってしか作られていない貴重なものです。

壺草苑には1年に1回、50俵のすくもが届きます

壺草苑には1年に1回、50俵のすくもが届きます

1年の月日をかけて大切に育てられたすくもは、藍染め職人さんの手に渡り、活躍することとなります。

このすくもに灰汁、石灰、ふすま(小麦の外皮)、お酒を加えて発酵させると、1週間ほどで染色液ができます。

糸や布を染色液につけ、出した時に空気中の酸素に触れ、藍色に発色します。この過程を染めたい濃さによって何度も繰り返します。

膨大な時間と、手間をかけて初めて藍は染め上がるのです。

藍は生きている

かめの中に「藍の華」と呼ばれる泡が浮かぶと元気な証拠

かめの中に「藍の華」と呼ばれる泡が浮かぶと元気な証拠

気温や湿度によって環境は変わりますから、”これくらいの割合で配合すれば毎回同じようにできる”というわけにはいきません。

「藍は自分で環境づくりができないから、人間がしてあげなきゃいけない。藍にはそれぞれの個性があります。生まれてからニコニコしている子もいれば、ギャーギャー泣いている子もいる。それぞれの対応の仕方があるんですよね。でもそれがまたわかりづらい。難しいからこそ面白いんですけどね。」

そう言って笑う村田さんも、初めの2、3年はすごく苦労したそう。それでも29年間、諦めず毎日藍と向き合い続けたことでやっとわかるようになってきたと村田さんはいいます。

「原料は決して安いものではないけど、当時はたくさんダメにしてしまった。でもだからこそ今がある。“もっと良い色をだしたい、もっといいものをつくりたい“その一心だった。今では目をつぶって藍をかきまぜて、音を聞いているだけでもわかる。」

村田さんは工房がお休みの日も、朝と夕方の2回、自宅から1時間半かけて歩いて藍の様子を見に行きます。

「この仕事を選んだ以上は最低限やらなきゃいけないことですから。」と大雪が降った日でもかかすことはありません。

村田さんが「天然藍灰汁発酵建て」にこだわる理由

壺草苑の工房内

壺草苑の工房内

元々青梅市は織物の産地として栄えていました。江戸時代には「青梅縞」と呼ばれた着物がブランド化し、江戸の粋な人たちがこぞって着ていました。

村田さんの家は大正8年から続く染物屋さんですが、海外にシェアが移行していき始めた頃から、売り上げは段々と落ち込んでいきました。

そんな時に社長であるお兄さんが「青梅縞を再現してはどうか」と目をつけました。

「青梅縞は主要染料が藍染めだったんです。江戸時代は化学染料なんてないですから、赤であろうが、黄色であろうが、みんな植物から取っているわけですね。青梅縞を作るためにはそういう染色を学ばなければならない。私がその担当になったんです。」

村田さんは徳島県の藍師の元で2年間修行した後、工房をオープンさせました。

現代では化学染料を用いた藍染めが主流になり、昔ながらの手法で行っているところは数少なくなっています。

化学染料であれば量産でき、価格も10分の1程度ですむそうです。休みなく藍の様子を見に来る必要もありません。

「お金儲けに走ろうとしたら化学染料を使うと思う。変えようと思えばすぐに出来ちゃうけど、うちはやらない。最初の目的が江戸時代の頃と全く変わらないやり方で青梅縞を再現するっていうところでスタートしたんで、そこはやっぱりこだわりたい。」

村田さんはその手法だけでなく、仕入れる糸や布も国産にこだわり、質の良いものを生み出し続けています。

江戸時代から続く日本人の知恵

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世界の色々なところで作られていた藍ですが、すでに絶滅している国もあります。タイやインドでは残っていますが、その中でも日本の藍が、色もクオリティも一番だと村田さんはいいます。

「着物の文化があったっていうのもあるし、薬がなかったから、植物の力を借りていかに身を守るかを考えていたからじゃないかな。江戸の火消しの人はすごく濃い藍で染めてるものを着ていたんですけど、藍の色素は燃えにくいんです。ちゃんと全て理由があって植物で染めてるんです。」

これが江戸時代から確立しているのがすごいところ。藍は他にも防虫、抗菌、消臭効果がありますが、人に優しいだけではありません。

村田さんは染め終わった液を畑にまくそうです。アルカリ性の液が土質をよくしてくれるのだとか。

「どんどん機械が進んでいるでしょ。でも昔のそういう知恵で今でも通用するものってたくさんあるんですよ。だから藍染め体験にくる小学生たちにも“おじいちゃん、おばあちゃんに、掃除のしかた、野菜のつくりかた…色々なこと聞いてみな“と伝えています。」

私たちの周りにはまだまだたくさんの“暮らしを豊かにする生活の知恵”が眠っているのかもしれません。

「壺草苑」のこれから

工房の隣にあるショップ

工房の隣にあるショップ

壺草苑ではドイツやカナダでの展示会をしたり、ニューヨークの近代美術館でストールを販売したりと、世界へ藍の魅力を伝えることを精力的におこなっています。

少しずつ世界で頑張っていくと同時に、若い人たちにもっと藍染めの良さを知ってもらいたいそうです。

「そのためには現代のニーズにあったデザインが必要」と日々の生活で親しまれるような洋服、靴下、小物などをつくっています。

嬉しいことに以前は藍染め体験にくる人が年配の人ばかりでしたが去年あたりから若い人が増えているようで、「昔ながらの製法で染める良さに気づいて、興味をもってくれたのかもしれない。違いがわかるようになってくれたのもかもね。」と嬉しそうに話してくれました。

そんな村田さんが全行程の中で一番好きな瞬間。それは布を干して、色が上手く仕上がっているのを見るとき。

「藍は人間と違って嘘をつかない。正直ですからね。状態が100%色に反映されます。」

自分がもし染めるとしたら…
そのときは一体どんな色が出てきてくれるのか。
ぜひ一度体験したいものです。

 

<店舗DATA>
壺草苑(こそうえん)
住所:東京都青梅市長渕8-200
TEL:0428-24-8121
開苑時間:午前10時〜午後6時まで
休苑日:毎週火曜日(年末年始は休苑)
入苑料:無料(但し、染めの体験、教室などは有料)
HP:http://www.kosoen-tennenai.com/

 

文 / 石川円香
東京都在住のフリーライター。関心があるテーマは日本文化、伝統工芸、暮らし、健康。
人の想いがにじみ出る記事を心がけて執筆に励む。