4月のある日。京都の四条河原町のホテルの下に、大きなポリタンクに濃紺の藍の染色液を携えて立ってる若者がいました。

一体何事ですか!こんな街中で!って思いました。笑

聞くと、なんでもホテルの企画で、これからここ(屋外)で藍染のワークショップをすると言うことでした。残念ながら別の仕事があったので、少し話をしてワークショップには参加できずにそのまま立ち去りましたが、過去に変わり種のワークショップを開催してきたこともある『てならい堂』でも、ちょっとびっくりした出来事でした。笑

その若者は西村さん。京都の伏見方面を拠点に、畑で藍を育て、藍染を伝えるDraw Dots Dawnの代表者なのでした。

そしてそれから少し時間の経ったまたある日、西村さんを訪ねて、街中に大量の染色液を運び込むほどの想いを、藍染にかける想いを聞いてきました。

実家を改造した藍染め工房。台所やお風呂も藍まみれでした。

祖父母の家を改造した藍染め工房。台所やお風呂も藍まみれでした。

西村さんが藍染に出会ったのは6年前。当時古着を売る仕事をしながら、何かを探していたという西村さん。そんな西村さんのアンテナに、友達から教えてもらった草木染めが引っかかってきました。最初に体験したのはインド茜。茜は赤く染まる染料。けれどそれには、「ハマらなかった」そうです。

しかし草木染めの持つ「何か」に気づいた西村さんは、その後自分がピンとくる染料、そして日本の色を探して、藍に辿り着きました。

やると決めたらまっすぐなこの方。まず最初にしたことは徳島への引っ越しだそう(笑)。ちなみに徳島は、日本の藍の大部分を栽培する、日本最大の産地です。

仕事を決めて引っ越すのでなくて、ひとまず現地へ行ってから仕事を探すというまっすぐさ。仕事もなく(笑)、家で我流で藍染を研究しながら、最初は現地の染め屋さんに飛び込みで当たります。

毎年何人もが藍を学びに徳島へと来るのだそうですけど、話はそう簡単ではなく、なかなか働かせてくれる先は見つからない。それは、藍師・染師たちがこだわりの強い頑固者という一面もあったかもしれません。が、それだけではなく、もう高齢の彼らが、「その仕事は次の世代には必要とされない」と思ってしまっていたのかもしれません。

現地で染め屋さんに、藍を栽培する所から勉強したいことを伝えたところ、紹介してもらえたのが新居修さん。現代の名工にも選ばれた新居さんは、藍染を次世代に伝えるために、志ある西村さんを受け入れてくれたのでした。

img_2869

藍染の原料たち。いろんな手法があって、いろんな正解があります。いや、正解はないとうことですね。

けれども、やってみて気づいたのは、藍の栽培から始まる藍師の仕事はほとんどを農業が占めるということ。これまでも何人もの若者が、藍染に惹かれて徳島にやってくるものの、その重労働に耐えかね、すぐに辞めてしまったそうです。

しかし西村さんはこう言います。「好きなことに限界はないですから。」

始める前から好きなことだと知っていた西村さんは、だからこそ、きっと集中した濃密な期間を過ごして、もともと2年と決めていた修行期間を終えて、京都へ戻りました。

西村さんの生まれ育った地域は、今でこそ新興の住宅地が広がりますが、もともとは一面の田んぼと畑だったそう。「そういえば母方の実家は農家だったなと。畑もあるなと」気づいたということで、伏見の地で、まずは藍を育てるところから、独立した西村さんの活動は始まります。

好きなことを仕事にできること、それをとことん突き詰められること、それはとても羨ましいことですよね。だって、誰もがそうではないから。だからそれは特有の能力であり、また一方で、いわゆる「そういう星の元」にある人なのではないかな、なんてことを思います。

img_2885

伏見の藍畑。通りすがりの人たちとの会話も楽しいけども、周りの田んぼが、どんどん辞めてしまうのだそう。

畑を耕し藍を育て、藍甕(あいがめ)を使っていなかった祖父母の家の床下につくり、そこで「すくも」と呼ばれる藍を発酵させた染色液を作り、その場所で藍染をします。そしてその活動は、実は体験を中心としていると言います。

屋号はDRAW DOTS DAWN。直訳すれば「点を、描く、夜明け。」西村さんにその意味を訊ねると、「自然を思う人が増えれば、自然がもっと増えるはず。」と答えてくれました。

美しく、自然とつながる藍染は、実は途絶えかけている。それをもう一度繋ぎ直すために、その美しさと、自然とのつながりを伝えるには、体験してもらうことが一番。藍染はもはや西村さんにとっては日常ですが、生活者にとっては非日常。その非日常が、生活者にとってきっと必要な自然とのつながりを気づかせてくれると信じて。

同じスタンスで10年ワークショップを続けてきたてならい堂にとっても、共感しかありません。

お客さんから預かった染め直しの洋服。この色が出るまで何度も染め重ねたそう。

お客さんから預かった染め直しの洋服。この色が出るまで何度も染め重ねたそう。

体験の一方で、西村さんは自分にしか作れないものを模索します。例えば、DRAW DOTS DAWNではTシャツは作りません。普通に考えたら手軽で売りやすいTシャツをなぜ作らないかと言えば、それはやがて捨てられてしまうから。

目指すのは、300年続くもの。「100年では短い、1000年はイメージが湧きづらい、だから300年」とのこと。300年はイメージ湧くんだ(笑)という、なんだかすごいスケールを感じながら、けれどてならい堂はそこにも共感しかありません。

長く続くものとして西村さんが染めるのはアートワークや、布そのものです。アートは長く飾られて、生活を彩るもの。経年の変化がその彩りを、もっと豊かなものにしていくはずです。そして布そのものは、何にでも形を変えられ、そして使い続けられるものなのだと思います。

アート作品。藍色って美しいなと思います。これ欲しいです。

アート作品。藍色って美しいなと思います。これ欲しいです。

合理的に考えれば、青く染まるなら、化学染料でも顔料でもなんでもいいのかもしれない。ましてその方が、綺麗な色、出したい色が安定的に出るのだから、なおのこと合理的です。

けれど全てを合理的にしたとき、多分私たちは、人としていられなくなる。

言葉では説明できませんが感覚的に、自然のものと、そして美しいものと繋がっていたいと思います。そしてそれを繋いでくれるつくり手たちを、てならい堂は尊敬しています。

そんな私たちが繋がりたい美しい自然の中で、西村さんは、藍を選んだ。彼が藍の何に惹かれたのかは、これから一緒に仕事をする中で、もっと切り込みたいと思っています。笑
それに、できればてならい堂のお客さんたちには、自分自身で、聞いて感じてもらいたい。そう思ってます。

なので、近いうちに、藍染を体験できる機会を、西村さんと一緒にお届けしたいと思っています。乞うご期待です。

西村さん。自然を生活に取り入れる点を描いてつなげる、そのために、彼の力を借りたいと思います。

西村さん。自然を生活に取り入れる点を描いてつなげる、そのために、彼の力を借りたいと思います。