【てならい後記】本革でつくるがまぐちワークショップ
こんにちは。てならい堂スタッフのしだです。
新年を迎え、新たな気持ちで新調したものが皆さんそれぞれにあるのではないでしょうか。私はコーヒー店でマグカップを買いましたが、口当たりも良くて不思議とコーヒーに合うんです。今年はコーヒーを飲むひと時が、さらに楽しみになりそうです。
年初めに新調するものの中でも、特に多いのはお財布かもしれません。春に使い始める財布は「春財布=張る財布」で、金運が良くなるとも言われています。とくにがまぐちは、大きくパカっと開く口が「蝦蟇(がま=カエル)」の口でお金をどんどん取り入れ、ふっくらとした膨らみからたっぷりとした豊かさを感じるアイテムです。
そんながまぐちを、本革を作ってつくるワークショップを行ったので、その様子をご紹介します。
今回は千葉市にある中川守和匠店に伺い、がまぐち職人歴50年の中川守和さんとスタッフの北川さんから、がまぐちの作り方を教えてもらいました。がまぐち文化、実は関東と関西で歴史や作り方が違うと言います。中川さんは、関東のがまぐち文化を築いてきた第一人者でもあり、関東近隣のがまぐち職人をまとめる親方的な存在。中川さんからは主に口金との接合のやり方を教えてもらい、縫製のやり方は主に北川さんが教えてくれました。
というのも、これまで中川さんはプロのがまぐち職人さんに教えることはあっても、初めての方にがまぐちの作り方を教えることは今回が初挑戦。初めての方でも作りやすくなるようにと、北川さんのアイデアも取り入れ、色々と工夫し準備してくださいました。
今回のワークショップでは、まずはじめに表側にくる本革と、内側にくる裏地を選ぶ作業からスタートしました。次に、それぞれの縁を縫製しやすくするために、表面同士を貼り合わせていきます。裏地に使う生地には両面テープを使い、革にはゴムノリを使って貼り合わせていきます。
次にミシンを使っての縫製作業です。縫製する部分には予め線を引いてくれていたので、ミシンを使うのが久しぶりという方でも縫いやすくなっていたと思います。ですが、こちらの職業用ミシン、家庭用ミシンと違ってペダルが前にも後ろにも踏めたり、膝を使って動かす動作があったりと、少々勝手が違います。何よりスピードがとても早いので、ペダルの踏み込みも軽めになるよう、足先にも慎重になります。
こちらは袖ミシンと呼ばれるもの。名前の通り、袖口などを縫うのに適した台の部分が小さいミシン。中川さんは、ほとんどのものはこのミシンで縫うことが多いそう。小回りが効くので慣れると縫いやすいのだとか。他に工業用ミシンもあり、それぞれのミシンの操作方法を教えてもらいながら縫製を進めていきます。
ミシンを使って縫う作業はお一人で行うことになるのと、お一人お一人作業スピードが違うこと、選んだ革の種類も違うので、ほぼ個別指導のような進め方となります。とくにマチの部分を縫うのが一苦労。カードを入れるポケットの部分がミシンにあたり、縫いにくさがありましたが、北川さんのアドバイスもあり皆さんしっかりと縫い上げていきました。
縫製が終わると、次に革と裏地を接着する作業に移ります。再びゴムノリを使って、裏地と革の両方の縁にノリ付けしていきます。両面が乾いてから貼り合わせるとくっつきやすくなります。
うっかり貼る位置がずれてしまっても、貼り直しも簡単にできるのがゴムノリの良いところ。
シワが出来ないように端からゆっくりと重ね合わせていきます。革と裏地がぴったり合わさると、とっても気持ちが良いんです。ここまでの作業で、ほぼ作業予定時間の半分が経過しました。
ようやくがまぐちの下準備が出来た段階といったところ。残りの時間で、いよいよ口金(くちがね)に本体をはめ込んでいく作業に入ります。がまぐち作りの醍醐味の部分でもあります。
口金に本体の革の部分を合わせてはめ込んでいくのですが、この時使う道具がハメゴテと呼ばれるもの。まずははめ込んでいく動作に慣れてもらう為、練習も兼ねてぐるっと一周はめ込みます。この動作、口金の中に革を入れ過ぎても入れなさ過ぎても良くないので、ちょうど良い位置のところではめ込んでいくことが求められるのですが、口金にどれだけ入っていったか見えないので、ほぼ手先の感覚だけが頼りになります。親指の力加減で革の位置調整をするのがコツだそう。
口金トップにある丸いつまみの部分は、はめ込むのが難しいところでもあります。合わせやすいよう、口金の中心部分に目印となるガイドを付けてくれていました。やっとはめ込むことができたと喜ぶのも束の間、これはあくまで練習。再び外していよいよ本番。綺麗にはめ込むことができた場合は、外したくないと思ってしまうのですが仕方ありません。逆に、ここまでで少々失敗していても次があるので大丈夫とも言えます。
外したら、口金の内側にボンドを付けていきます。この時、内側でも革と接する面にだけボンドを薄く付けるのがポイント。はめ込む方法は職人さんによってそれぞれ違うのだとか。慎重にはめ込んだ後は、紙紐を入れていきます。
紙紐は、ボンドを付けたりせずそのままはめ込んでいきます。テコの原理が働いて、口金が外れにくくなるのだそう。先人の知恵はすごいですね。
がまぐちを作る職人が減ってしまった現在、自分が持っている知識やノウハウは全部教えていきたいと思っていると中川さんは言います。自分ががまぐちを続けられているのも、良い職人達に恵まれていたからこそ今までやってこれている、と。中川さんの周りにいつも人が集まっているのは、がまぐちを介して出来た関係性を大切にする感謝の心に、出会った人達があたたかさや優しさ、豊かさを感じるからだと思いました。
中川さんにとって、がまぐち作りは、「面白い」の一言に尽きるとか。同じ口金を使っていても少しの違いで雰囲気が変わった印象に見えるのがとても面白いそう。片手一回の操作で、ポンッと開け閉めできるのもがまぐちの魅力だと言います。何より本革のがまぐちって、中身がしっかりと守られているように感じるんです。私自身がまぐちは色々持っているけれど、革のがまぐちは今回が初めて。中川守和匠店のがまぐちを持った時の第一印象がそれでした。何を入れようかな、と考える時間も面白いですね。
革それぞれに特徴があって一概には言えないそうですが、メンテナンスに関しては革専用のクリーナーを使ってお手入れしたり、もし不具合が生じたりしても、今回ご参加された皆さんは作り方が分かっているので、修理もご自身でできますよとおっしゃっていました。
パチンと響く口金の音も楽しめて、たっぷり入り、使い込んでいくうちに変化する、本革を使ったがまぐちのお財布ができました。
参加してくださった皆さん、そして中川さん、北川さん、どうもありがとうございました!