染め屋の工房で書く、いつもより丁寧な年賀状
てならい堂は、書道家塩川素子さんと出会いました。
「書く」ことを教えてくれるのは、書道家の塩川素子さん。
文字工房・素(しろき)を主催され、映画のタイトルや企業のブランドロゴを書かれたり、ヨーロッパを中心にビジュアルアーティストとしても活躍されています。
以前にワークショップをご紹介した雨人さんの篆刻を塩川さんが使っていて、そんな縁で、今回ご一緒させていただくことになりました。
「何か面白いことやりたいですねー」と、てならい堂のオフィスへ来てくれた塩川さんは、いわゆる書道の先生的?なイメージは全然無くて、柔らかくて、すごくざっくばらんな印象の人。
それでいてお話しすると、やっぱり道を究めている人だなーと思わせる視点が、しばしばと。
まっすぐに、しっかりと、相手の目を見てお話しする塩川さんのプレッシャーに負けて、つい目を背けそうになるのをこらえながら(笑)、でもたくさんのお話をして、そして、塩川さんがてならい堂での講座を通じて伝えたいことが、ちゃんと聞けたと思います。
いわく、「生活の中で、手間を省くことが重宝がられている中で、”書く”ということもどんどん省かれてしまっています。」
「TVを見ながら洗い物をする様な、”ながら仕事”も、気になることのひとつで、何かをしながらではなくて、ひとつひとつを区切って、集中する時間を取ることが大切だと思っています。」
「字の美しさを極めていくことよりも、もっと気軽に、暮らしの中で書を楽しんでもらう機会を作りたい。ナンバーワンよりオンリーワン、書くことこそそんな風に楽しんでもらえたら良いと思います。」
塩川さんのお話は、てならい堂が伝えたい価値観やこれまで大切にしてきた思いと、共通することがとても多くて、一緒に何かを作らせてもらえることが、とても楽しみになりました。
「書くことを省かない。」その意味を考えてみました。
てならい堂も日々、パソコンをパチパチしながら日本のものづくりを紹介している訳ですが、本当に文字を書く機会が減りました。
たまに、文字を書かなければならない機会に直面すると、いかに普段、書くことから離れてしまっているかを痛感します。
でも、書く機会が少ないからこそ、数少ない書く機会を大切に思い、その文字をできるだけ、きれいに書こうという気持ちになれることもあります。
その時に感じるのは、奇麗な文字を書くことは、自分を奇麗に見せることでもありますが、それも含めて、むしろ相手への思いやりや、敬意、礼儀といったものの現れであるということ。
相手のために書くばかりではなく、仮に自分の暮らしのために書く機会があれば、それは自分の暮らしを思いやることにつながるのではないでしょうか。
塩川さんと共有している講座の裏のテーマは「書くことを省かない暮らし」。
ちょっとしたことで暮らしって豊かになる、そのための手間を惜しんで欲しくない、という共通の思いからこの企画は始まりました。
書くことが思いやることだとすれば、書くことを省かない暮らしは、暮らしそのものを思いやる暮らし。
そもそも書道とは、書くことで文字の持つ美しさを表そうとする「用美一体」の芸術と言われます。
「書道」と最初から言ってしまうと、少し固い印象になってしまうのですが、ただひとつのことを突き詰めて考えると、そこには自然と「道」ができるもの。
それを芸術の域に高める”道”を想像すれば、そこにハードルがあって当然な訳ですが、けれどもそれが、自分の気持ちをそのまま伝えるためのひとつの手段、日々の暮らしを少し丁寧に変えていくための”道”だとすれば、また違った想いで向き合うことができるのではないでしょうか。
染め屋の工房で書く、いつもより丁寧な年賀状
小さい頃に通った「書道教室」には、たくさんの友達が子供らしくわいわいと集まりながらも、やっぱり他の遊びとは違った、凛とした空気があった様な気がします。
朱墨で先生に直されながらも、赤が減ることで上手くなったことを実感したり、上手く書けて赤丸をもらったときの嬉しさ、そんなことを思い出しました。
けれど大人になった今、もしかすると赤文字で直されるということに、私たちは少し疲れてしまっているかもしれませんね(笑)。
塩川さんの言う通り、肩の力を抜いて楽しむことは、ひとつ、大切なテーマです。
姿勢を正して、いつもより丁寧な年賀状をしたためる。
けれど、デザイン書道の要素なんかも取り入れて、楽しみながら気持ちのこもった賀状を作りましょう。
できればこの年賀状が、来年、今より少しだけ丁寧に暮らすために、書くことを省かない暮らしを続けるきっかけになれば、と思っています。