【てならい後記】島根の鍛冶屋と料理家と、グラス片手のお話し会
まだまだ暑さが残る9月4日。焼き料理の芳ばしい香りと賑やかなおしゃべりが神楽坂ストアを包みました。
こんにちは。てならい堂スタッフのまるです。
グラス片手に鉄のフライパンのお話し会を開催しました!島根の鍛治工房”弘光”の小藤さんと料理家のminokamo(みのかも)さんをお招きして、総勢15名ほどの夜会。
参加者のサポート会員のみなさんは、このフライパンのサイズ感が好き、自分の手で試してみたいと思った、とそれぞれの思いを胸にご参加いただきました。
つくり手、てならい堂、生活者。みんなでフライパンを囲みながら、小藤さんのお話とminokamoさんのフライパンレシピを堪能しましたよ。
まずは乾杯!
小藤さんの工房”鍛冶工房 弘光”があるのは、古くから鉄の産地として知られている島根県の東部地方。もののけ姫の舞台になったと言われる”たたら操業”による鉄文化の歴史、その技術を継承しています。
鍛冶工房 弘光は、時代に合わせて、農器具、生活用具、刀剣鍛錬の鍛冶業などを受け継ぎ、その技術を作品に昇華されています。
昭和50年代から鉄の灯り器具の復元に取り組まれ、今ではランプシェード、オブジェなど、現代の暮らしの道具のデザインと製作もされています。
そして、今回お越しいただいた11代目の小藤宗相(しゅうすけ)さんが、長年のものづくりを経て、作られたのが鉄のフライパン「鍛月」です。
「自分は鉄フライパンの製作者としては後発なので、身近に使える存在としてのフライパンを目指しました。」と小藤さん。鍛造の技術を伝えていかなければならないという思いから、身近かつ個性のあるフライパンを作られています。
2人目のスペシャルゲスト、料理家のminokamoさんは、岐阜県美濃加茂市のご出身だからminokamoさん。
東京と岐阜(お祖母さまが暮らした築100年ほどの家)を拠点として、全国に赴き、地域の食材や食文化から、現代にも馴染むレシピを考案されています。レシピだけでなく、器づかいの提案やフードスタイリング、執筆も手がけられているんです。
普段から鍛月を愛用されているminokamoさんから、料理家視点での鍛月の魅力もいろいろ教えてもらいました。
みんなとご飯を食べて元気が出たという経験、みなさんもありますよね。
minokamoさんはご自身の経験から、自分の料理を食べて!という気持ちより、みんなとのご飯が美味しいよね。という気持ちが大きいそうです。田舎のおかあさんの大胆さ、あったかさもありつつ、確かな緻密さを併せ持つ方だなあと感じました。
ご自身はフライパンが良いから、とご謙遜されてましたが、料理がことごとく全部美味しく、調味料や調理道具の質問もいっぱい飛び交いましたよ。
鍛月は、鉄を火で熱し、1点1点金づちで打ち鍛えて造形する、昔ながらの鍛造技法で作られています。
鉄を鋳型に流し込んで成形する「鋳造」と異なり、素材を熱し叩き鍛えて成形していくのが「鍛造」。数を作ることが容易でなく、それぞれの作品の風合いもすべて変わってきます。
繰り返し叩くのは、酸化皮膜を取り除いて、鉄に粘りと強度を与えていくため。鍛えた証として、月のクレーターのような表情が生まれます。また、表面が均一化されないことにより、食材の焼き面に味のグラデーションが生まれ、一層美味しくなります。
灼熱の中での仕事。想像を超える大変さなんでしょうが、小藤さんはサウナに人よりずっと居れるんだ。熱さの耐性があるんだ。とおっしゃってました。
それでも火は本来、人がコントロールできないもの。そして目に見えないものと向き合う仕事。という言葉が印象的でした。過酷な温度の中でひたすら鉄を叩く。自分自身とも向き合う仕事ですよね。
現在は、小藤さんのお父さまと小藤さん、小藤さんの妹さんの3人でやられている鍛冶工房 弘光。お父さまは日本刀を作られていて、日本刀鍛錬の技法は、重厚でありながら繊細さと緻密さが必要なんだそう。
日本刀鍛錬を身近に見てきたからこそ、フライパン鍛月のTUKAの持ち手は、日本刀の柄をイメージしています。籐巻きの技術を用いて、小藤さんの妹さんが巻いてるそう。それぞれのしごとと思いが継がれてできるフライパン、素敵です。
つくり手のキャラクターがそのまま作品づくりに出る、という小藤さん。様々なタイプがいるけれど、自分は”感情”でものをつくるほうだそう。念が入っている、と。だからか、もともと冷たい鉄から、火とその人のぬくもりを感じることができます。
鍛月の浅めのフライパンの形は、長年工房で作られてきた”燭台”がルーツ。シンプルなデザインですが、ずっと眺めていられる美しい形です。おうちのキッチンに掛けて置いとくのもいいですね。
そして、美しさはさらに細部にも。
フライパンの取手と本体を結合する部分。プレス接合ではなく、江戸時代から伝わる「かしめ留め」で繋いでいます。ひとつひとつの形に合わせた手作業ならではの頑丈さ、美しさです。
また、フライパンの色の変化も楽しめるんです。焼成といわれるのですが、最初は銀、使っているうちに紫や黒へとだんだん色が変わっていきます。
今回、焼きたての料理をフライパンのまま鍋敷きに置いていただきましたが、このように、ぜひぜひお皿としても使ってもらいたいんです、と小藤さん。
保温性にも優れているため、そのままテーブルに並べれば、料理がすぐに冷めることなく美味しくいただけました。サイズ感や厚さ、見た目が良いですからね。
息子さんを連れて、家族でバーベキューするときも、1人1枚フライパンを使って、食べたいものを各々が焼いて食べるんですって。贅沢!だけど、なに焼いてるの?とか、焼き具合の違いとか感じて、そういうコミュニケーションって良いですよね。
伝統を伝えながら、フライパンの使い勝手を定義しないライトさも、鍛月の魅力だと感じました。
みなさんで美味しい料理とフライパンを囲って、小藤さんのものづくりのお話を聞く会。
最後に、小藤さんもminokamoさんも、共通しておっしゃっていたのが、人と人との繋がりが次のものづくりのパワーになる、という言葉でした。
自分たちも鍛月のこと、鍛造のこと、料理のこと、直接聞いて愉しめる。つくり手と生活者が、体感としてお互い心地よいと思える機会。
僕もいつもお会いするみなさんとちょっと深くお話できたのが、とても嬉しかったです。
急な催しとそのお誘いにも関わらず、ご協力いただいた小藤さん、minokamoさん、お越しいただいたサポート会員の方々、ありがとうございました!
これからも愉しい催しを開催していきます。